[画像]「ThinkPad X1」

2016年1月に米国ラスベガスで開催された「CES 2016」(CES=The Consumer Electronics Association/全米家電協会が主催する世界最大級の"家電見本市")においてレノボは、プレミアム製品として「ThinkPad X1」ブランドを立ち上げ、従来からの「ThinkPad X1Carbon」に加えて、「ThinkPad X1 Yoga」「ThinkPad X1Tablet」と「X1ファミリー」を展開しています。
ラインアップのなかでも、大きな注目を集めているのが「ThinkPad X1 Tablet」。この製品は、現在タブレットの主流になりつつある「2in1」製品におけるレノボの最新形であるとともに、随所に開発陣の挑戦が込められた意欲的な製品となっています。「ThinkPad X1 Tablet」の開発を指揮したのが開発部門ディレクターのT.K.。彼とともに製品に魂を込めた電気回路エンジニアN.S.と、機構設計エンジニアT.K.に、開発への思いを聞いてみました。

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背景プレミアム製品としてのタブレット

(T.K. ディレクター)レノボではこれまでも数種類のタブレット製品を世に送り出してきました。しかし2014年1月に発表した「ThinkPad 8」までは、なかなか満足のいく製品とはいえませんでした。試行錯誤があったことは認めざるを得ません。しかしさまざまな角度から検討を加え「満を持して」市場に投入した「ThinkPad 8」は、ヒット製品となりレノボのタブレットが進化する礎となりました。そこで得た手応えや市場評価を基に、私たちは2014年12月から「ThinkPad X1 Tablet」の企画を開始したのです。その段階では「X1ファミリーとしてプレミアム製品であること」「2in1製品であること」が確定していました。レノボのタブレット製品として「丈夫さ」「持ち運びの良さ」「使い勝手の良さ」「PC同等の高いスペック」は当然のこと、私たちはプレミアム製品として何が必要なのか。このことを考えるうえで私たちは、今一度『お客様は「2in1製品」をどのようにお使いになるのか』という「原点」を見つめ直したのです。多くの声を聞いた私たちは、ある意味では「頭を悩ませる」結果となりました。それは「2in1製品は、ユーザーにより使い方がさまざまである」ということ。それだけに製品に求める要素が多種多様になり、それは時には相反する内容になるということです。ある人は「少しでも薄く、軽く、優れた携帯性を重視」する。ある人は「性能や機能を重視」する。「キーボードの使い勝手こそが重要」という人もいる。これらのニーズが人によって異なる場合もあれば、同じ人であっても、デスクでの作業なのか、移動中での作業なのかといった「使うシーン」によってもニーズが変わってくる…。これが「2in1製品ならではの「事情」でした。これらの多様なニーズをどのように製品として結実していくのか。この点が私たちにとっての大きな挑戦となりました。

[画像]タブレット [画像]タブレット

このお客様の多様なニーズにお応えするという挑戦において様々なことを徹底的に検討するなかで生まれたアイデアが、本体に機能拡張のためのオプションモジュールを装着させるという「モジュールコンセプト」です。ベースとなる本体性能を高めることでお客様ニーズにお応えしていくことは当然ですが、お客様の様々なビジネスシーンを見据え、そのシーンによって異なるニーズに対応してタブレットの機能が変化する柔軟性と拡張性を提案したいと考えたのです。とはいえ、開発側としては大きな挑戦である一方「本当にできるのかな?」という不安もありました。
[画像]「ThinkPad X1」 従来であれば、いかにシンプルにして軽量化を図るか、高いスペックを限られたサイズで展開できるかといったゴールの見えやすさがあったのですが、「2in1製品」での「モジュールコンセプト」はレノボ内でも、また他社にもない全く新しい考え方だっただけに、実現可能性が見えてくるまではまさに暗中模索でした。不安はありましたが、ハードルが高いということは開発担当としては、大きなやりがいにもつながることでもあります。「モジュールコンセプト」を含めた製品スペックに「最終GOサイン」が下り、詳細設計がスタートしたのは2015年4月。最初の試作品が出来たのが8月です。この間は、N.S.もT.K.(機構)にも、従来以上に頑張ってもらいました。

[画像]評価風景

追求技術面でのさらなるトライ

(T.K. ディレクター)本体の開発においては、「妥協することなく、最も薄く、最も軽いThinkPad」の実現が大命題でした。結果として薄さという点では8.4mm。軽さという点では12インチで800g未満を実現しました。キーボードを取り付けても1.1gという軽さです。「ThinkPad」の名を冠するだけの性能と信頼性をを担保しつつも、いかに小さく、薄くするかが開発の大きなテーマでした。この難次案に立ち向かってくれたのがN.S.、T.K.(機構)の両名です。
(N.S.)私が担当したのはマザーボードです。従来製品と比べて薄さや軽量化を実現しつつスペック面も担保する。このためには、とにかくマザーボードを薄く、小さくするしかありません。ここが実現できなければバッテリーの大きさにも制約がでてしまいます。私自身、この製品に携わる前は、メモリなどのマザーボード内の一スペックを担当していました。今回初めてマザーボード全体の電気回路設計を任されたのです。しかも突然(笑)。T.K.(ディレクター)さんからは「あれこれ考えずに、まずは大きさにトライして」と言われていましたが、大雑把に従来品の約半分の大きさを実現させたうえで、それ以上にスペックを盛り込むなんて、初めてのトライにしては、ずいぶん高いハードルでした(笑)。薄さを考えると片面実装しかできず、検討を進めていくと裏面には0.6mmくらいしか余裕がありません。しかもCPUやメモリなど、それぞれのモノを配置するにはさまざまな制約もあります。もうパズルを組み上げるような感覚でした。またあまりにもマザーボード自体が小さいため回路が密集しており、デバッグのためのテストパッド等、機能に不要なものは割愛せざるを得ませんので、別途開発中のデバック用にテスト基板も準備する必要があります。最終的に満足いく結果となるまでに3ヶ月くらいかかりました。これは従来のマザーボード設計と比べると相当に長い開発期間です。もちろん私一人だけの成果ではなく、多くの人の意見やアドバイスをもらいながら実現できたのですが、私にとっては本当に高いハードルでした。それだけに思い入れのある製品です。

[画像]「ThinkPad X1」

(T.K. 機構)私が担当しているのは熱設計です。PCにしてもタブレットにしても小型・軽量化は大きなテーマとなります。そこで特に重要となる要素は熱設計です。今回の「ThinkPad X1 Tablet」は、ファンレスでありながら、低消費電力プロセッサの処理能力を最大限に引き出すということが、私たちのチームの大きなテーマとなりました。今回の製品では2015年に発売した「ThinkPad Helix」で採用した「ベーパーチャンバー」という超高性能熱伝導デバイスを大幅に改良しました。これは非常に薄い銅板の間に水を閉じ込め、銅板内でCPUによって温められた蒸気が拡散し、水滴になって戻るという対流を繰り返すことでCPUを高速冷却させるものです。「ベーパーチャンバー」内には「水路」があるのですが、今回「ThinkPad X1 Tabilet」用に、数十種類のパターンを検討し最適化を行いました。また従来は2層構造だったものを、3層構造へと追加することで「ベーパーチャンバー」内の蒸気の循環をさらに促進させることも実現できました。エンジニアがテーマと向き合う場合、仮説に対してある程度の確度を持って取り組むことが多いのですが、今回は「誰もやったことがない」テーマへのチャレンジとなったため、「水路のパターン」など、まだ技術的に解明されていない要素も多く苦労しました。一時は出口が見えないトンネルの中にいる感覚もありましたが、「どうすれば製品に貢献できるのか」という思いが、当時の私を支えていました。そして今回の「ThinkPad X1 Tablet」では、もう一つ挑戦したことがあります。それは「ベーパーチャンバー」という「ハードウェア」と、レノボが積み上げてきたセンサー技術を駆使したソフトウェアとの「合わせ技」を使うということです。「インテリジェント・クーリング」と呼んでいるのですが、これはお客様の使用環境を検知し、最適な熱制御を行うものです。これによりお客様がオフィスで使用する場合でも、デスクトップPCと同等のスペックを実現することができました。

[画像]「ThinkPad X1」

(T.K. ディレクター)今回の「ThinkPad X1 Tablet」は、プレミアムブランドであるだけに、従来製品以上に「お客様の使い勝手」を意識しました。例えばキーボードです。これは薄さ・軽さにこだわりながらも「ThinkPad」の特徴であるトラックポイントを搭載し、ノートパソコンの操作性に近いレベルを実現できました。開発当初は素材をプラスチックで考えていたのですが、強度面で問題があり途中からマグネシウムへと変更しました。薄さ・軽さを保ちつつ、「ThinkPad」としてのスペックとレノボらしい堅牢性が実現できたと思っています。そしてモジュールです。オプションモジュールのアイデアは、企画段階では数多く出ましたが、今回はバッテリーを内蔵した「プロダクティビティモジュール」。2mの壁に60インチの大画面を投影するプロジェクター機能を持つ「プレゼンターモジュール」。そして3Dスキャンができる「3Dイメージングモジュール」の3種類に絞りました。モジュールで大変だったことは、その機能とともにタブレット本体への「装着感」でした。私たちが目標としたことは「薄いタブレットとモジュールオプションを、ネジで留めているような一体感で合体できないか」ということ。モジュールの機能がお客様に評価いただいたとしても、タブレットに装着した際にぐらつきが生じるようではプレミアム製品とは言えません。この難題をクリアしたヒントは、アタッシュケースでした。アタッシュケースは一般的に、テコの原理を利用したレバーでロックします。この機構を参考にしたのです。さまざまな試行錯誤の末、最終的には10kgfの力でタブレットを引き込み、一体感を実現しました。また細かい点ですが、キーボードの角度にもこだわりました。最終的には3段階に角度を変えることが可能になりました。

[画像]製作風景

開発を終えて開発者に何が残ったのか

(T.K. ディレクター)2015年の8月に、最初の試作品が出来上がりました。通常の開発プロセスでは、出来上がった試作品を経営陣や重要顧客に見ていただき、そこで出た意見をもとに設計変更を行い最終製品へと仕上げていくのですが、今回は、このサイクルを一度だけではなく数回行いました。量産開始の2ヶ月前まで、大きな変更を入れるということはきわめて異例なことですが、それは私たちの「お客様の使い勝手」へのこだわりを最大限に追求するという本気の姿勢の表れでもありました。開発チームとしては、その間のスケジュール管理、変更後の設計の検証など、通常の開発プロセスよりも圧倒的に作業量が増えてしまいましたが、結果として現時点でのレノボの最新タブレットとしての優れた使い勝手、そして高い品質は実現できたと思っています。
(T.K. 機構)今回の「ThinkPad X1 Tablet」の熱設計を通じて、ハードウェアとソフトウェアをいかに効率的に組み合わせていくかという点が、私自身にとって大きな財産となりました。そして技術的な面ばかりではなく、エンジニアとして「お客様が製品をどう使うのか」「お客様に製品をどう使ってもらうのか」というお客様視点の大切さをあらためて感じたことです。こうしたことを考え、それに対してエンジニアは何ができるのか。何をするべきなのか。こうしたエンジニアとしてのスタンスを見直す良いきっかけとなりました。エンジニアとして熱設計技術という自身の拠り所となる要素技術を深く追求する。これはエンジニアとして一つのあるべき姿です。しかしそればかりではなく、お客様視点から技術を捉えるというスタンスもまた重要です。こういう視点はレノボらしいカルチャーではないでしょうか。「ThinkPad X1 Tablet」の熱設計は、熱設計チームとしても一定の満足はありますが、今はこれを超えるものにチャレンジしています。与えられたことだけを粛々と行うのではなく、常に新しいテーマにチャレンジする醍醐味があると感じています。特にレノボのエンジニアは「負けず嫌い」が多いので、他社に負けたくないという思いは強いと感じます。

[画像]評価風景 [画像]ThinkPad X1

(N.S.)今回の案件まではメモリなどのマザーボードの部分的な回路設計を行っていたのですが、今回は初めてマザーボード全体を設計するということになりました。マザーボード全体の設計と向き合ってみて、「これだけのことを考えながら設計をしなければならないのか…」と、あまりにも高い壁を前に、とまどいもありました。今回のプロジェクトで、最も強烈に私自身が学んだことは「シナリオ作り」でした。以前の私は、極論すればどんな質問が来ても「できる」「できない」で判断していれば良かった。しかしマザーボード全体の設計では、マーケティング部門など、さまざまな方面からの要求を受けとめなければなりません。「ユーザー視点で考えると、これはできないが、こうすればできる」といった「シナリオ」を作りプレゼンテーションすることが必要になることを、今回は体感したのです。もちろん先輩からアドバイスを受けることで身についたことですが、いろいろな声をしっかり聞き、自身のなかで再構築し「シナリオ」を作る。このことはエンジニアとして成長していくうえで、とても大きな気付きになりました。

(T.K. ディレクター)「ThinkPad X1 Tablet」の広告では、「その実力、もはやタブレットではない」と記されています。もちろん現時点では開発担当として、一定の満足感はありますが、まだ「完成形」ではありません。私自身は、もっと良くしたいと思っています。もっと良くする。それはお客様の使い勝手のさらなる追求です。そのためにもお客様の声をしっかりと聞く。そしてそこに今回の「モジュールコンセプト」のような、レノボとしての提案を加えていく。このことが大切だと思っています。今回は短い開発の期間ながらも試作品のサイクルを数回まわしてユーザーのフィードバックで完成度を高めるという大きなチャレンジをしましたが、従来のやり方に固執することなく、徹底的にお客様の使い勝手を追求する。今後も、こうした「レノボらしさ」を活かして、仲間とともに新しい製品を世に送りだしたいと思っています。

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