[画像]「ThinkPad 8」

2014年1月に発売したタブレット「ThinkPad 8」。この製品はレノボにとってきわめて大きな意味を持つものとなりました。それは長年ノートPCである「ThinkPad」の進化に取り組んできたレノボが「市場が求めるタブレットとは何か?」を考え抜いたうえで、あらためてタブレットを世に問うという使命を持っていたのです。そのプロジェクトをプロジェクトリーダーとして技術面で牽引したのは、開発部門ディレクターのT.K.。
企画段階から生産に至るまでの一切を技術面でリードし、数十名のエンジニアを統括してきたT.K.に「ThinkPad 8」への思いを聞いてみました。

[画像]T.K.

背景満を持しての市場投入

レノボでは「ThinkPad 8」を発売する以前にも2機種のタブレットをリリースしていました。しかしそれらは、今思えば、私たち自身も「トライアル」の域を出ておらず、また私たちのメインユーザーである企業ユーザー側も、タブレットをビジネスユースとしてどのように使っていけば良いのか模索している段階という背景がありました。最初に世に送り出したタブレットは「ThinkPad」の強みである堅牢性、つまり丈夫さを意識したものでした。これは今見ても、すごく頑丈なつくりになっているのですが、その分、重くなってしまい、タブレットとして持ち歩くには適さなかったという反省がありました。その次に出した機種は、前回の反省を踏まえて、相当の軽量化は実現できたのですが、PCと比べて、明らかにスペック面での物足りなさが出てしまった…。残念なことに私たちは、2世代にわたって試行錯誤をしてしまったのです。3世代目にあたる「ThinkPad 8」では、必然的に企画当初から、「丈夫さ」「持ち運びの良さ」「使い勝手の良さ」「PC同等の高いスペック」という要素は外せないポイントとなりました。またその場合、PCである「ThinkPad」とどう棲み分けを考えるべきかという議論もありました。この点は、お客様によって使用状況が違ってきますので、明確な答えを見出すことはできませんでしたが、見えてきたことは、「一台二役」という考え方です。これは、お客様にとって外出先でも満足に仕事ができるとともに、自席に戻ってもそのままタブレットで仕事を続けることができることを意味します。この「一台二役」という考え方が、「手のひらに入るThinkPad」というコンセプトへとつながったのです。3世代目にして、まさに「満を持しての市場投入」となりました。

[画像]製作風景 [画像]製作風景

私たちが最初に取り組んだこと、それは「手のひらに入るThinkPad」を標榜した場合、適切なサイズとはどれほどであるのかを検討し、決定することでした。以前のタブレットは10インチ。このサイズでは片手で操作するにはやや不適切です。ではどのサイズ感なら良いのか。私たちが調べたところ、その分水嶺は「横幅135mm以下」であるという結論に達しました。もちろんそれよりも小さければ小さいほど良いのですが、一方でビジネスユースを考えた場合、画面サイズは大きいことが望ましいわけです。そこで私たちが目標としたのは「130mm程度の横幅で入る最も大きな画面サイズ」であること。しかもその解像度はフルHDを上回るWUXGA1920×1200ピクセルにするということ。当時、他社製品の多くは、8インチタブレットの場合、140mm程度の横幅でした。私たちは、内部の機構設計を工夫することで「132mm」の横幅にできることがわかりました。また、並行して画面サイズも8.3インチの搭載が可能であることがわかりました。8.0インチと8.3インチ。その差は「0.3」ですが、実際は縦方向で「6mm」横方向で「4mm」の表示領域の違いとなります。この差はお客様にとっては大きなメリットとなるとともに、レノボが新しく世に問うタブレットにふさわしいトライであると感じました。
[画像]「ThinkPad 8」 また「PC同等の高いスペック」という点でも最新のCPUを採用することで、前世代のタブレットを遙かに超えた性能向上を図ることができることがわかりました。さらに言えば、条件によっては、ノートPCを上回る処理能力が実現できることが見えてきたのです。適切なサイズ感。PC同等のスペック。これらの要素が担保できることがわかった段階で、「手のひらに入るThinkPad」は、製品化にゴーサインが出たのです。

[画像]T.K.

追求技術面でのさらなるトライ

私たちエンジニアチームが「ThinkPad 8」に盛り込んだ技術的成果は、サイズとスペックばかりではありません。さまざまな機能についても新しい試みを取り入れています。
ノートPCの「ThinkPad」には、ともすれば「質実剛健」というイメージを持つ人も多いかもしれませんが、グローバル市場においては、個人使用のデバイスと、仕事用のデバイスが同一になる流れが起きています。これは、デバイスにデザイン的な美しさや外観上の完成度を求めるお客様が増えているということを意味しています。私たちは今回、裏面全体にアルミカバーを採用しました。アルミカバーはタブレットの質感に一層の美しさを与えてくれます。しかし、一方で大きな問題もはらんでいます。それはアルミが金属である以上、WiFiワイヤレス機能を担保する電波を通さないということ。従来であれば、アンテナにかかる部分をプラスチックにすることで対応してきましたが、今回は、アルミカバーを使う以上、その美しさにこだわりたいという思いがありました。せっかくアルミカバーにするのですから、アルミとプラスチックを合わせてカバーをつくるということになれば、どうしても素材の違う「継ぎ目」ができてしまいます。なんとかしてアルミカバーだけで、シームレスにできないか。この難題にエンジニアは果敢に挑戦してくれました。さまざまなパーツメーカーに呼びかけ協力をあおぐことで、アルミ素材に負けないばかりか、競合製品にも負けないワイヤレス性能を持つモジュールを生み出してくれたのです。また、アンテナの形状も試行錯誤し、そのチューニングにも工夫を凝らしました。アルミカバーによる美しさ。その一方で万全なワイヤレス性能の担保。ここは、エンジニアチームとしても印象に残るトライとなりました。また、PCの世界は全体的にコモディティ化が進んでいて、部品を共通化することでコスト削減が叫ばれていますが、今回のように専用部品をつくり製品に搭載することで差別化ができるということは、PCシェア世界ナンバーワンであるレノボの強みの1つだと、あらためて実感しました。

[画像]「ThinkPad 8」

この他にも思い出深いトライがあります。それは純正オプションである「クイックショット・カバー」の実現です。タブレットのカメラ機能を使って撮影を行う場合、一般的には「カバーを開く」「ロックを解除し立ち上げる」「カメラのアプリケーションを起動させる」「撮影する」というプロセスが必要となります。しかし、ビジネスユースを考えた場合、ホワイトボードに書かれたものをメモ代わりに、すぐにカメラで撮影するということは案外あることです。パーソナルユースであれば、なおのことでしょう。ならば「撮りたい時に、ストレスなく素早く撮ることができる」という機能は必要ではないかと私たちは考えました。このアイデアは、製品企画段階のかなり早い時期から議論されてきました。

[画像]「ThinkPad 8」

では、そのアイデアを実現するには、いったいどうすれば良いのか。議論百出の末、私たちが辿りついたのは、純正オプションのカバーの右上を折り曲げることで、カメラのアプリケーションがワン・アクションで立ち上がるというもの。レノボ内はもちろん、他社製品でも同様の機能を持った製品は存在しません。その折り曲げた形状が犬の耳に似ていることから、私たちプロジェクトチームでは「Dog Ear」と呼んでいました(もともと、本や雑誌のページの角を折って栞がわりにすることを英語では「Dog Ear」と言います)。プロジェクトチームは日本だけではなくてグローバルに展開していますから。しかし、これは正直なところ、テクノロジーを担う私にとっては「ドキドキ」でした(笑)。企画段階から「できない理由はない」と感じてはいたものの、さて本当に実現できるのかどうか(笑)。カバーを使ってこのような実装をするにあたっては、カバーの動きをどのように感知するのかという点で幾度となく検討を重ねました。また、カバーを本体に取り付ける磁石もやっかいな存在でした。カバーをしっかりと本体に保持するには磁力を強くすることが必要です。しかし磁力を強くしてしまうと内蔵する地磁気センサーにも影響を及ぼします。地磁気センサーの精度が悪化すると、例えば地図ソフトを見たときにユーザーが向いている方向がおかしくなってしまいます。カバーを折り曲げることで本体のカメラ機能を起動させる。しかし地磁気センサーの動作に影響を与えるわけにはいかない…。ハードウェア、ソフトウェアの各エンジニアが、持てる力を結集してこの機能を実現させたと感じています。おそらく現場のエンジニアも、そのプロセスでは「本当にできるのかな?」「本当に使いやすくできるのかな?」といった思いはあったはずです。私自身も「これなら行ける」と確信が持てるまではいつもドキドキしていましたから(笑)。でも、エンジニアたちはやりきってくれました。磁石の位置、磁力の向きなどを粘り強く調整して、より少ない磁石で必要な機能を実現させてくれたのです。結果として、カバーを折り曲げるだけで、本体がロック状態であってもパスワードの入力なしに、素早くカメラのアプリケーションを起動させることができるようになりました。同様にカバーを閉じた状態では自動的にスタンバイ状態にすることも実現できました。私の「ドキドキ」が「確信」に変わるまでには、すいぶんと時間がかかりましたね。でも、だからこそ思い入れのある機能になりましたし、結果として市場での高い評価にもつながりました。

[画像]T.K.

市場評価思わぬ誤算

さまざまな機能を搭載して、満を持してリリースした「ThinkPad 8」ですが、リリース直後は意外な市場評価でした。私たちは基本としてビジネスユースを想定していたのですが、リリースしてみると、想定以上に個人ユーザーが飛びついてくださったのです。これは発売前に雑誌などでのレビューで、PC同等の性能の高さと画面の美しさが評価されたこともあり、特にタブレットでゲームをするお客様からの注文が殺到したのです。これはありがたい誤算なのですが、私たちは当初、企業ユーザーを想定して生産計画をつくっていましたから、リリース直後に殺到する購入希望に応えることができませんでした。すぐに市場では品薄になってしまったのです。市場に満足していただけるだけの供給体制をつくるには、数ヶ月かかってしまいました。これは大きな反省点にもなりました。
しかし、結果として「ThinkPad 8」とクイックショット・カバーは市場から高い評価をいただきました。お客様の満足度は、なかなか数値化することはできませんが、従来のタブレットとの大きな変化は、本体とクイックショット・カバーをセットでご購入いただくユーザーが激増したということ。これは本体とカバーをひとつの「セット」として捉えてくださった証明であると考えています。エンジニアとしては、まさに狙い通り(笑)。この評価はうれしかったですね。
今までお話したことばかりではなく、「ThinkPad 8」には他にも、実際に目にする画質の良さを追求するために「Direct Bonding」という技術や独自のカラーフィルターを採用したり、スピーカーやマイクなどのオーディオ面、さらには、カメラ画質の大幅な向上と、さまざまな技術的トライを行いました。また、クイックショット・カバーにおいても、大胆に赤色を採用するなど、デザイン面でも大きなトライを試みました。

[画像]製作風景 [画像]製作風景

プロジェクトリーダーとして私が強く印象に残っていることは、各エンジニアがそれぞれに高いモチベーションを持ち、維持し、全員で成し遂げていったという手応えです。もちろんプロセスでは、会議で激論を闘わせることもありました。「それは無理です」と言われることも幾度となくありました。でもそのような高いハードルを乗り越えるからこそ、エンジニアの仕事は面白いのではないでしょうか?
レノボの特徴のひとつとして私が感じていることは、製品企画にしっかりと時間をかけて、世界中のいろんな意見を取り入れるということ。時間も手間もかかりますが、ここをおろそかにはしないということは、様々な多様性を大切にするレノボらしさのひとつではないかと感じています。だからこそ、製品企画が認められ製品開発のゴーサインが出た時は、エンジニアチームは「できる」と約束しそれを確実に実行しなければなりません。プロジェクトリーダーとしては、毎回「ドキドキ」しながら約束するのですが、私の経験から言っても、約束する段階では「本当に大丈夫かな?」と内心ドキドキするような挑戦しがいのあるプロジェクトの方が、結果としてエンジニア魂に灯が付くのか、「ThinkPad 8」のようにいい製品になったりします(笑)。このドキドキ感を乗り越えるからこそ、世の中に全く新しい価値を提供していくことができる。これこそがエンジニアとして挑戦できる環境と言えるのではないかと感じています。

エンジニアの成果が価値として世の中を動かす。それは、内心ドキドキしながらも常にトライし続けることではないでしょうか。そのことを私自身「ThinkPad 8」のプロジェクトを通じて、あらためて実感しました。
今レノボが取り組んでいるPCやタブレット、あるいはスマートフォンといった情報機器を取り巻く状況はどんどん変化しています。その形状や機能はこれからも進化していくことでしょう。しかし、ネットワークから情報を得る、あるいは自分から何らかの情報を発信する、繋がりを築くという行為は、これからも人々の仕事や生活において重要であり、そのような行為を助ける情報機器もまた重要であり続けると考えています。人々の暮らしの中で大きなウェイトを占めている情報機器に、これからも「ドキドキ感」を持ってチャレンジし続け、人々の仕事や生活が、より一層便利になるような貢献をしたいと思います。グローバルに事業を展開し、多様性と向き合っているレノボであるからこそ、私たちの中からまったく新しいコンセプトの情報機器を生み出すことができるかもしれませんね。

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